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2018年11月10日土曜日

デザイン戦略修論テーマは「ユーザー参加型デザインプロセスに非ネイティブ話者を取り込む」に



カナダはトロントにて、シニア・サービスデザイナーをしています。前回ご紹介した通り、9月からアイルランドの大学院で修士課程の最終段階を進めています。

今回は、修論テーマが決定したので
・テーマ内容について
・トロントにおけるこの研究の意味
・決定に至るまでの経緯
を紹介します。


テーマ:ユーザー参加型デザインプロセスにESL(第二言語)話者を取り込む


ユーザー参加型デザイン(Co-Design、Co-Creationと言ったりもします)はHuman-centered Design(人間中心デザイン)における代表的なアプローチのこと。カナダのサービスデザインコンサルである弊社Bridgeableでは、クライアント企業のサービスを取り囲む実際のユーザーやステークホルダーの人々が感じている問題点を引き出したり、また解決策を共同でつくるために、この手法を主軸に使ったコンサルティングをしています。

現状、こういったCo-Designの場に参加するユーザーは、カナダ人やネイティブに近い上級英語が話せる人たちです。この研究ではここに、まだ英語での会話がスムーズにできない非ネイティブのスピーカーを取り込むことを目的としています。


トロントにおけるこの研究の意味


日本に住んでいる方は、現地語非ネイティブをリサーチに取り込むってなんのこっちゃ?と思われるかも知れませんが、トロントではこれが大きな意味を持ちます。

①トロントの人口
まず、国際都市トロントでは:
・人口の約半数は外国生まれ(NYよりも高い割合)
・45.2%の母語は英語以外
・26.6%は自宅で英語以外の言語を使用している
(Statistics Canada, 2016 Census)
と、カナダ国外から来た人々が多く、かつ約3割の人は英語がネイティブ並ではないと考えられます。

②そもそも、Co-Designをする意味
デザイン思考や、それをサービスに応用したサービスデザインがユーザー参加型デザインをする意味は、ユーザーやステークホルダーの「声」を聞き取り、彼らが本当に必要としているものを設計することにあります。企業やデザイナーが「こう思う」ものではなく、実際にそのサービスの影響を受ける人たちのニーズをもとにしよう、という考えです。

③Co-Designリクルートメントの現状
インタビューやワークショップ参加者を募集する際にはスクリーニングが行われます。ここでは主に、プロジェクトの目的に合った対象者かどうかを見分けます。現状、人種不特定の一般的なCo-Designでは、この段階で英語が上級レベルで話せないユーザーは非対象となります(特定の人種や文化グループを対象にしたリサーチの場合は別)。

最近は行政やビジネスにもHuman-centred Designの考え方が広まり、我々デザイナーが雇われるようになりました。私の働く会社でも、行政や交通機関、ヘルスケア、金融など、さまざまな分野のクライアントと組んで、ユーザー参加型デザインに取り込んでいます。しかし、「ここでいうユーザーって誰?」「誰の声に重きを置いているのか?」と考えると、トロント人口の約3割を占める英語が得意でない移民層の声は拾えていないことになります。この研究では、ここに切り込みを入れていく第一歩を入れていくことを目的としています。


テーマ決定までの経緯


最初はヘルスケアとデザインの方向で考えていたので、CEOや教授陣に以下ふたつの案をピッチしてOKをもらっていました。

・デザイナー・リサーチャーに向けた、患者リサーチにおけるセンシティビティ研修の開発
・こどもの患者とその親向け「患者コミュニケーション」のデザイン

私は特に後者に関心が強かったので、こちらで進めようと事前リサーチをしたところ、病院を取り込むのにとてつもなく時間がかかるため、修士論文に割り当てられた約4ヶ月で取り組むのは現実的ではないことがわかりました。

そこで、トロント人口のほぼ半分である、移民やESL話者を対象にしてはどうか?と方向転換。弊社CEOと話した結果、ヘルスケアに限定せず、Co-Designプロセス全般のInclusivity(包括性)を向上させよう、と決まったのでした。

と、今回はテーマについて紹介しました。現在、研究真っ只中なのでまた更新していきます!


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サービスデザインシリーズ:
問題解決ができないデザイナーはデザイナーじゃない
1. 新しいデザインのあり方|サービスデザインって何?
2. サービスデザイン|ユーザー中心型デザインとは

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