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2014年9月20日土曜日

トロントで学ぶ多角的なデザイン戦略って?Institute without Boundariesの紹介。


カナダはトロントのInstitute without Boundaries(IwB)というデザイン研究所で勉強しています。デザインっていうとほとんどの人はグラフィックデザインやファッションデザインというバリバリ技術的に作る方を思い浮かべると思いますが、IwB他、デザインスクールにおいてはデザイン=問題解決、イノベーションのための戦略という考え方です。

プログラム名は「Interdisciplinary Design Strategy」。この「interdisciplinary」というのがIwBの特徴で、以下の3点が大きなポイントです。

1. 学生のバックグランドが多岐に渡る
2.教授が全員業界のプロフェッショナル
3.他大学、研究所、デザインスタジオ、行政、クライアントとの共同研究


1. 学生のバックグランドが多岐に渡る


 まず、アカデミックバックグラウンドの幅広さ。通常のアート・デザイン系の大学院課程は建築プログラムなら建築の学士、デザインならデザインの学士を持っている人が対象ですが、IwBでは複数の分野からの学生を受け入れています。
 今年は私を入れて10名。私は、社会学部マスメディア専攻卒業後、広告業界で3年半働きながらグラフィックデザインの専門学校に通って今に至ります。他の学生はというと、美術学ニューメディア専攻、アーバンプランニング、環境デザイン、工業デザイン、インテリア建築が各1人ずつ、建築が2人、政治学が2人。大体デザイン系半分、それ以外が半分です。

 次に、プロフェッショナルバックグラウンド。純粋に学部卒で来ている子は2人だけで、他の大学で修士取得中の1人の他は、キャリア経験のある学生ばかりです。

 そして、文化的なバックグラウンド。プログラムコーディネーターの先生によると今年は1番国際的だそうで、日本人は私1人。白人系カナダ人と韓国系カナダ人が2人ずつ、フィリピン系カナディアン、ベトナム系カナディアンが1人ずつ。カナダ人と一口に言っても、カナダで生まれ育った子もいれば、家族と移住してきた子、他の国で働いたり留学していた学生もいます。
 留学生は、私の他はブラジル人、中国人、スペイン人。中国人の子はアメリカの大学卒でNYで1年就職、スペイン人の子はブラジルとメキシコでキャリアを積んでトロントに、ともう正直何が何やら。

10人という少人数の中にこれだけの幅広い教養・キャリア・文化が入り混じっていているので毎日がとても刺激的です。ここに研究所の方針が現れていて、バックグラウンドが違う人達が集うことでcollaborativeな問題解決やそのプロセスが生まれるっていうのを日々感じます。


2.教授陣が全員業界のプロフェッショナル


 これもIwBの大きな特徴で、普通の大学のような純粋にアカデミックな教授というのは一人もいません。現在進行形で自分のスタジオを経営したりプロジェクトを進行しながら教えている教授がほとんどで、招かれる講師やゲストスピーカーも全員、各業界で働いている人です。もちろん教授陣のバックグラウンドも、広告系から建築系までさまざま。

 毎週、大きな課題の発表があるのですがそこには5〜10人ぐらいの教授・講師陣が集まります。発表が終わると批評タイム。全員がプロフェッショナルだわ業界がバラバラだわで、色んな角度からものすごい量の批評が飛んできます。


3.他大学、研究所、デザインスタジオ、行政、パートナーとの共同研究


 最後に、とてもユニークなのは実際のクライアントワークがあり、様々なパートナーと共同研究ができること。

 現在はまだ学期が始まったばかりで各分野の基礎的な学習をひと通りしている段階ですが、早速クライアントワークもちょこちょこと。

 1つはうちの大学で行われるMayoral Debateのポスター制作。トロントでは来月市長選を控えていて、今は毎日のように候補者たちが色んなところでディベートをしています。これがうちの大学でも行われるということでアカデミックコーディネーターが半ばゴリ押しで仕事を取ってきてくれました(笑)。IwBの授業はとにかくインプットと実践の繰り返しなのですが、教室の中でよくできましたってやってるのと、クライアントの意向を汲み取りながら(時にはデザインが全くわからない人を相手にしながら)制作して、実際に世に制作物が出るのとって全然違いますからね。

 もう1つは、Nuit Blancheという野外で、オールナイトで1日だけ行われるコンテンポラリーアートイベントのコンテンツ制作。これはScotia Bankが年に1回開催しているイベントで、各団体・アーティストがコンテンツを提供しているんだけど、私達はその内のひとつのExhibit Changeというコミュニティデザインスタジオから「このエリア使って、イベントのポリシーを汲みつつインタラクティブでなんかいい感じのことやってよ」っていうオーダーを受けて、半インスタレーション的な企画をしています。クライアントのチェックは入るものの、企画から実施までやらせてもらえるしめっちゃおもしろそうなので私はこっちにガッツリ関わってます。

 また、特徴的なのはIwBではCharretteという集中デザインイベント的なことを年に数回開催していること。同大学の他学部やパートナー大学の学生、外部のスタジオ、研究所、シンクタンクなどのメンバーとチームに別れて数日間のグループワークをします。今年はトロント、デトロイト、シカゴの3箇所で開催。
 パートナーはToronto Foundation、City of Chicago、City of Eastpoint、ミシガン大学、他。特に興味があったイリノイ工科大学(IIT)ともパートナーシップを結んでいて、シカゴのCharretteではIITの学生・教授陣とも関われるのがものすごく楽しみです。



日本にいる時は仕事上色んな種類のデザイナーさんと関わることも多かったのですが、デザインというと技術的・様相的なデザインに重きを置いた会話になることが多かったんですよね。スケッチしたりAdobeをゴリゴリ使ってアウトプットするっていうのはデザインのプロセスでも最後の一部だけですし、もっと前のというか包括的な意味合いでのデザインという考え方を(まだ私もわかっていないながらに)実践的に学ぶのが、IwBという研究所です。

留学前よく読ませてもらっていた「ビジネスとデザインの交差点〜D School留学記」でも書かれていたけど、デザイン戦略とかデザイン思考っていう考え方や分野に携わる日本人は少ないのかな、というのが今の印象。筆者のKuniさんの在籍中もIITで日本人は一人だけだったと書いていらっしゃいますし、IwBでは11年間で私が初の日本人です。日本はデザイン・サブカルチャーという文脈で見るといい意味でものすごくガラパゴっているから個人的に最高!と思ってもいるのですが、だからこそそういう日本でデザインやってる特殊なセンスを持った人たちが一時的にでも海外に出てその存在感を出してくれるといいなあと思います。

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